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千葉県柏市 A様

宮大工との家づくり

「おはようございまーす」

月曜から土曜まで祝日であっても、台風であっても雪であっても、朝7時半に工匠の小林さんはやって来た。住みながらのリフォームをお願いして、区切りを付けて終わりにするまで9か月間、春夏秋冬のほとんど毎日小林さんは我が家に通って家をつくり替えてくれた。

毎日私の出勤前と帰宅後、土曜日や祝日は日中も含め、事細かなことから大きな仕様変更まで実にたくさんの話し合いをしながら工匠さんと過ごした。今回のリフォームを通じて、家づくりについてまったくの素人である私がいくつか学びまた気づいたことがあります。これから家を新築またはリフォームされる方のご参考になれば幸いです。


我が家は築30年の木骨ALC板張りスレート葺のありがちな住宅

家づくりは職人分業体制

 

 家づくりには様々な職人が関わります。大工、足場屋、断熱屋、建具屋、設備屋(水回り設備)、サッシ屋、電気屋、ガス屋、タイル屋、左官屋、板金屋(屋根)、塗装屋などと分業化されており、我が家にも様々な職人が出入りしました。この中で最も長期にわたり家づくりに携わっているのが大工です。拝見していた感覚で時間的に9割以上を大工仕事が占めています。他の職人さんは単発的にやって来るという印象です。

大工仕事のほとんどが見えなくなる


 家が完成すると目を引くのは、きれいな内外装、意匠を凝らした造作、機能的な設備であり、大工仕事の8割方は他の職人仕事に覆われて見えなくなります。大工としてももっと見てもらえる仕事をしたいと思うのは人情でしょう。私はこの大工仕事の大半が見えなくなるということに興味を持ちました。

見えなくなる大工仕事の中身


 見えなくなる大工仕事とは構造と下地です。まさに家の強度や耐久年数を左右する重要な部分です。構造と下地の仕事がしっかりとなされていれば神社やお寺のように長年にわたり安心して使えるでしょうし、逆にいくらコンピュータを使った構造計算に基づき設計されたとしても大工の腕が良くなかったり雑であれば役に立ちません。

 我が家は30年前に大手住宅メーカーに建ててもらいましたが、当初から基礎が数センチ傾いていた施工ミス(手抜き)が今回分かり、基礎の修繕が必要となりました。この隠された大工仕事により築30年後に予定外の出費となったわけです。ずさんな施工による構造劣化は、最悪の場合、地震の際の損壊被害につながるかもしれない命にもかかわる重大な問題です。

↑内壁と床をはがし、柱や梁の腐り、構造の強度や傾きなどをチェックし、必要な修繕を施してもらう。

構造に関しては、この段階でやるべきことをやっておかないと取り返しがつかなくなる。

白い梁は、間取りを広げるために柱を抜く際に、親方の「遊んでみませんか」の言葉に乗って、化粧梁の装いながら実は思い切り構造を支えているというものにしてもらう。

お付き合いによる大工との信頼関係づくり


 家づくりの大半を占める重要な大工仕事がほぼ隠れてしまうという事実は見逃せません。毎日大工仕事を見ていても素人には分かりませんし、多くの方の場合、完成するまでほとんど見る機会がないでしょうから、大工を信頼する以外にはありません。

 出会ったこともない大工を信頼して、家族の安全をも守る家づくりを託せるでしょうか。今回我が家は先ず契約前に何度も、そしてリフォーム着手後は毎日大工さんと会い、仕事に対する姿勢を拝見し、仕事内容の説明や入手木材に応じた大工ならではの提案をいただき、茶を飲みながら修業時代の話など聞かせていただくなどしながら信頼関係を築いていきました。 

 家づくりの仕事の大半を占める大工と直接そしてじっくりとお付き合いすることが、とても大切であると実感しました。

 

↑9か月間我が家にほぼ毎日通った小林さん。

私たち家族は仕事や学校で出かけてしまうので、その期間我が家に一番長い時間居たことになる。ネコの面倒までみていただき感謝。


大工の裁量


 新築にしてもリフォームにしても、契約したらあとは決めたレールの上を走るように工事するだけということを、今となっては私には想像できません。

 実際に木材を調達した際に思ったよりも良いものが手に入って、大工としてはより良い使い方が思い浮かぶこともあるでしょう。依頼する側としては、進む工事を見ていると具体的にイメージしやすくなってきて部分的に変更を加えたくなることもあります。

 このように施工過程で変更したい場合、工務店の雇われや下請け時のように大工の裁量が確保されにくい場合には、なかなか融通はきかないのではないでしょうか。顧客と大工の間に介在する人がいればその分コストも増加するでしょう。

 このことは特にリフォームにおいては重要です。既存の柱や下地などがどのような状態にあるか工事を始めてみないとわからないことが多く、例えば柱1本の部分的な腐りについても、腕の良い大工が主体的に顧客に臨機応変の提案ができれば柔軟に対処できます。依頼主としても自分の様々な考えを大工にぶつけてみるのは結構楽しいものです。ジャズのアドリブの楽しさに似ているかもしれません。工事期間中ただ待つだけでなく一緒に楽しめます。おかげで我が家は契約時の内容からいろいろと変更が加わり、より素晴らしいものとなりました。

 
   

↑特にお願いしたわけではないのに、親方が嬉しそうに「すごいのを手に入れちゃいました」と持ってきてくれた屋久杉にも迫るクラスの銘木。豊かに細かな肌理はなめらかな光を放っていて見ていて飽くことはない。経年変化も楽しみ。こうしたらいいんじゃないか、ああしたらいいんじゃないかと話しながら、すばらしい和風窓のような床の間のような空間に仕上げてもらった。


住宅建築における宮大工


 宮大工は神社や寺をつくる職人というのが一般的説明と思いますが、住宅のリフォームをお願いした私から拝見した宮大工は、木材と木工技術と道具にこだわり建築する職人という印象です。

 今回の我が家のリフォームにおいても、稲垣親方はこんな板が入手できたと我がことのように嬉しそうに持ってきてくれて、階段板や玄関の式台(土間と床の間の踏板)に銘木を惜しげもなく使ってくれました。また、部屋を広げるために抜いた柱の補強として、化粧梁のような立派な檜の梁を構造材として使用することを提案してくれ、小林さんが丹精込めて手で刻んでくれました。

 柱と梁の組み方などにおいても、木材の今後の経年変化を読んで方法を選択するなど、見えないところへもこだわりの技術と精度を追及してくれました。

  
↑構造を支える梁と柱を木組みでつくってもらう。梁は檜、柱は杉。梁の角はノミで名栗欠きして野趣を出してもらう。

 宮大工の道具に対するこだわりは、かなりマニアックな領域に行ってしまっている人が多そうです。玄能(金槌)、ノミ、鉋、鋸などの道具への投資は素人には驚きですし、玄能の柄を何年も手もとで乾かした枝から自作する人もいます。中には道具を抱いて寝る人もいるそうです。

 宮大工の仕事の本質は、大きな寺や神社をつくるということではなく、木材を適切に選び、そして個々の木材の素性を読み、たくさんの伝統的な工法と細部にわたる加工技術の引き出しの中から適した方法を選び出し、それを厳しい修業を通じて高めた精度でこだわりの道具を使って手で刻み込んでいくということなのかなと、工匠さんの仕事を見ながら思いました。


↑小林さんが階段のササラを刻んでいる。厚みがありすごい迫力。

  

↑階段板にはすべり止めの細工を施してくれる。稲垣親方の心遣い。

↑階段の板にも銘木を使っていただき、1枚1枚味わいがあり見ていて飽きない。手摺は自庭の枇杷の枝。

 宮大工の仕事をこのように捉えてみると、寺や神社に比べると小さな住宅であっても建物のサイズに関わらず、それも新築だけではなくリフォームであっても、宮大工の本領を発揮することはでき、お願いした者としてはその結晶の中で生活を送ることができます。それは単に「木のぬくもりを感じる家」とか「自然素材を使った家」というレベルを超え、なにか気持ちが凛とするような清々しさを感じる空間と言えます。このような空間で日々の生活を送ることができるのはとても気持ちよいです。

 

↑杉材は柔らかく温かい。薪ストーブでさらに温かみを増す。

新築の方には特に宮大工による木組みの家をおすすめ


 新築の方へ、宮大工のご採用を特にお勧めします。先ず、宮大工に任せるということは木造建築が大前提となります。木造建築が強度的に長持ちすることはお寺や神社が物語っています。ただし、お寺や神社は高度な技術を有する宮大工がつくっているから長持ちします。単に木造だからではありません。

 一方、鉄骨や鉄筋コンクリートの家も長持ちすると言えばそうですが、ポイントは間取り変更の自由度の高さや修繕のしやすさです。何十年も時が経つにつれ家族構成や嗜好は変化するでしょう。それならば耐久性も備えた間取り変更といった構造変更がしやすい木造建築の方が良いです。修繕も一本の柱の一部分だけ差し替えなど必要最小限の対処ができ効率的です。そして任せるのは宮大工が良いのです。

 例えば、今回我が家のリフォームで改めて知ったことは、木は時を経るに連れ痩せるという事実です。我が家は大手住宅メーカーにつくってもらった極めて一般的な木造住宅で、柱や梁の繋ぎにボルトとナットが多用されています。築後30年を経て、ナットが指で簡単にくるくる回る状態になっていました。ナットが緩んだのではありません、木が年を経て乾燥し痩せたのです。工匠さんから申し出ていただき、すべてのナットを締めなおして更にナットを2重にしてもらいました。その後の地震の際の揺れ方が明らかに小さくなり、効果は絶大でした。

  
↑壁や床や天井を壊さないとできないことがある。そして素人では気づかないことがたくさんある。

 新築の方には、寺や神社で培った宮大工の技術による、ボルトやナットを使わない木組みをおすすめします。そうすれば30年後にの強度回復のためだけにリフォームする必要はなくなるでしょう。ナットを締めなおすという簡単なことも、壁を壊したりしなければできないので大掛かりになってしまいます。先に触れたように修繕が必要な場合にも宮大工は柔軟に必要最低限の対応が可能です。新築後まだまだ長い年数の人生があり様々な変化が見込まれる若い方には、特に高度な技術を有する宮大工による木組みの家をおすすめします。

 リスクマネジメントの観点からも、例えば日本の風土とも言える地震に対し古い建造物が明かしている強度という事前の備えと、何か修繕が必要となった場合でも臨機応変に対処しやすい事後への備えという両面において、木組みの家は優れていると思います。あくまでも日本の風土に適応してきた伝統的な高度な技術に裏打ちされた木組みの家に限ります。

宮大工が元請けするということ


 私は職人気質が高い宮大工が元請けとして注文を取って、大工以外の職人に仕事を振るのは良いことだなと思いました。大工の中でも職人気質が高い宮大工は、他の職人に仕事を振る際にも同じように高い職人気質の人に依頼しようとするであろうと想像でき、結果として全体的にもレベルの高い仕事がなされることになると思うからです。

宮大工に依頼する際のコツ


 せっかく宮大工に仕事をお願いするのですから、宮大工の力を出来るだけ引き出す依頼のしかたについて考えました。

 冒頭記した通り家づくりは分業体制です。時間的には9割方が大工仕事ですが、費用的には必ずしも比例していません。全体費用における宮大工仕事の費用割合を増やすことが、宮大工の本領を発揮してもらうことにつながると思います。

 宮大工仕事の本領は手刻み仕事です。家の構造・下地づくり、床・壁・階段などの室内仕上げ、収納・洗面台・キッチンなどの造作についてできるだけ手刻み仕事すなわち大工の手間を増やすことです。具体例としては、構造の強度を金具や装置によらず木組みによって出す、床は合板の既製品と床下暖房設備の組み合わせではなく温もりのある厚い杉板にする、風呂場・洗面所・キッチンを手作りしてもらう、完成後に家具を新調するならば、自分の使い勝手に合わせ予め造り付けてもらうなどです。

 

↑風呂は青森ヒバをすすめていただき、水の跳ね返りで濡れにくいようにタイルは少し高めまで貼ってもらう。ホーロー浴槽も相俟って身体にも心にも温もりが沁みる。職人魂の塊のようなタイル職人のおじさんも忘れがたい。


↑洗面台、鏡、棚も造り付けてもらう。タオル掛けは自庭の枇杷の枝を使い小林さんと遊ぶ。
 

↑トイレも居心地が良くて落ち着いてしまう。手洗い器の下の無粋な配管は隠してもらう。トイレも思った以上に凝った造りとなった。

 それと既製品の仕入れに関して価格節約の工夫をすることは良いと思いますが、依頼する宮大工が自身の手間代についてぎりぎりの工夫をしていることを確認できたら、手間代を値切ることはお勧めしません。その代りにより品質を上げることを求めるほうが、結果的に依頼主にとっても満足を得られると思います。

 また、なによりも依頼する側としてもいろいろとこだわることだと思います。いろいろとこだわって宮大工と話をすることにより、依頼主としての考えや思いが伝わり、宮大工がそれを形にしてくれます。

  
↑吹き抜けにシーリング・ファンを設置するために化粧梁を付けてもらう。予想を凌ぐごっつさに少し笑う。天窓は開閉式で夏に熱気を逃がすというコンセプト。

  
↑裏小庭をテラスルームのように囲ってもらい薪棚も作ってもらう。今回交換した古い窓を再利用した。土間など徐々に自分で整備する予定。
ここは、となりの公園の桜を見ながらバーベキューをしたり、薪割りなどいろいろな作業ができる「遊び」の空間だ。

  
↑外観は、ALC板はそのままにし、ドアと窓と猫の出入り口を交換し塗装し直してもらう。
塗料は遮断熱機能がありテカテカ光らないものを使用。塗装屋さんも若いのにとても腕の良い職人さんが来てくれた。ドアを開けると思い切り和風でギャップ感も楽しい。


 築30年木造2階建ての我が家の今回のリフォームでは、2階は屋根裏断熱、窓の交換、一部間取り変更と最小限の補修に留め、将来家族構成がまた変化した時の楽しみとして残しました。

 その時にまた毎朝工匠さんが「おはようございまーす」と通ってくれて、いろいろな話に花を咲かせながら一緒に家をつくっていただくのを今から楽しみにしています。


 

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